禅の建築空間 金沢 鈴木大拙館

Architecture

金沢駅から徒歩とバスで約20分、
兼六園や、建築で有名な金沢21世紀美術館のほど近くに鈴木大拙館があります。 
緑豊かで閑静な住宅街の中に位置する、洗練された控えめな存在感の建物です。

鈴木大拙館は金沢出身の仏教哲学者 鈴木大拙()の博物館で、
写真・著作を通し鈴木大拙を「知る」「学ぶ」「考える」ことを目的に2011年に建築されました。

鈴木大拙館はコロンビア大学やイエール大学で禅の講義を初め
アメリカに禅の文化を持ち込んだ“2人のSUZUKI”のうちの1人である。
彼の著書である「禅と日本文化」は世界中で翻訳され多くの人に読まれた。
(もう1人のSUZUKI、鈴木俊隆はサンフランシスコに修行道場を構え、只管打坐を指導した。
著書である禅の入門書「禅マインド ビギナーズ・マインド」(サンガ新書)は
スティーブ・ジョブズが学生時代から愛した座右の書である)

この建物の設計は、谷口吉生という建築家が手掛けました。
彼はこれまで、正当なモダニズムを継承し、幾何学の美しい建築を数多く生み出しています。

谷口がこの建築で目指したものは「無の意匠」
「無の意匠」とは単純な形状や自然素材を取り入れたデザインを指すだけでなく
そこを訪れる人々の一連の空間体験に重点をおいたものです。

鈴木大拙館は、回廊で結ばれた「玄関棟」「展示棟」「思索空間棟」の3つの建物と
「玄関の庭」「露路の庭」「水鏡の庭」という3つの庭園で構成されています。
これらの空間を回遊することによって鈴木大拙の思想を感じ、
考えることを意図した段階的な建築空間となっています。

ここでは特に鈴木大拙の思想を体現した「思索空間棟」と、
その周りをぐるりと囲んだ「水鏡の庭」について紹介します。


鈴木大拙の功績を紹介する「展示棟」を抜けると、パッと視界が広がる。
広がる水面が「水鏡の庭」、そしてその奥に見える建物が「思索空間棟」だ。

回廊を巡って水鏡の庭に浮かぶように在る「思索空間棟」に向かう。

内と外とが明瞭に仕切られていないこの空間で、畳に腰掛けてみる。

目の前で刻々と変化する水面を眺めながら、木々が揺れる音に耳を澄ませると
私たちが日頃行なっている、物事に対する過去の良し悪しの判断や
未来に対する過剰な期待が小さなことに思えてくる。

今この瞬間に意識を集中し「考える」ことができるこの空間は
忙しい時間を生きる多くの現代人に必要な場所だと思える。
この水鏡の庭は「静寂」と「自由」という鈴木大拙の精神を表した空間であるようだ。


静かな空間で自分自身に向き合う思考体験をされたい方には是非訪れてほしい場所、
それが鈴木大拙館です。

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